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新規化学物質は遺伝子の変異原となる可能性があり、特に、農薬は食品とともに体内に入るので、危険性が高く、農薬取締法( 最終改正 2018 年
)で規制されています。
農薬取締法では、
「 農作物等を害する病害虫の防除に用いられる殺菌剤、殺虫剤その他の薬剤及び農作物等の生理機能の増進又は抑制に用いられる成長促進剤、発芽抑制剤その他の薬剤
」として、天然農薬も化学農薬も併せて農薬と定義しています。
天然農薬は、
「 重曹や食酢など、その原材料に照らし農作物等、人畜及び水産動植物に害を及ぼすおそれがないことが明らかなものとして農林水産大臣及び環境大臣が指定する 」特定農薬として、従来通り使用が認められています。
農取法施行( 1948 年 )以前より非常に長期にわたり使われてきたものですので、妥当な判断だと思います。
農薬取締法の規制・管理は、専ら化学農薬に向けられています。
化学農薬は、
使用対象・方法などに加えて、農薬原体の薬効、薬害、毒性及び残留性に関する試験成績を記載した書類を提出し、
設定された基準内におさまっていれば、
製造・輸入・販売許可( 登録 )を行政より受けることができます。登録更新は、販売継続意思の確認に過ぎず、3 年ごとです。更新しなければ、登録が失効します。
登録の取り消しは、人畜に被害が生ずるおそれがある場合、あるいは、水産動植物に被害が発生し、かつ、その被害が著しいものとなるおそれがある場合、行政が職権により取り消すことができます。( 第 6 条の 3 )
多くの場合、新規物質の健康被害は、奇病という形で現れます( 水俣病と熊本大学医学部水俣奇病研究班 )。あるいは、難病に分類されるかもしれない。原因の解明には長期間かかり、解明できるかどうか、わからない。
だから、「 おそれ 」の段階で、登録取り消しをおこなうのは、妥当です。
この化学物質が原因だと、因果関係を証明できなければ、登録取り消しにできないということであれば、健康被害が拡大してしまう。
逆に、現行安全性評価試験制度において人間に健康被害が出る可能性があることは織り込まれていると言えます。
もし、科学的安全性評価試験をおこなうことで、人間に健康被害を与えないことが 100 %保証できるのならば、「 おそれ 」がある場合など、想定する必要は全くないからです。
少なくとも、科学的安全性評価試験にパスして登録に至っても、「 行政は安全を国民に対して保証していない 」と普通に理解できます。
これは法政策的には、良くある進め方です。
例えば、運転免許制度があります。本来、運転不適格者を排除してから、免許を交付すれば良いのですが、現実的には誰が運転不適格者に該当するのかわからないですから、希望者にはほぼ全員に免許を交付して、道路交通法の点数制度を用いて、運転不適格者を免許停止・取消にて排除するという運用がされています。
入口が必ずしも完全ではなくとも、必要なレベルで排除する運用をおこなうことにより、交通事故の最少化などと言った、安全性が全体で確保できるということです。
そういう意味では、交通違反・事故が一定件数発生することは、制度上織り込まれています。運転不適格者が、排除されるまでは野放しになっているので、仕方がないことと思います。
入り口で完全な安全を確保できない場合、登録取消の運用が重要になります。免許と取消:この 2 つは法政策的にはセットです。
では、農薬取締法において、登録取消につながる、「 おそれ 」の評価・判断を、どの段階で行政がおこなうか?
農薬メーカーから、「 おそれ 」は無い、という反論は、必ずあるでしょう。動物実験データを豊富に持っています。しかし、人間にとってどうか、ということとは、別です。
奇病が発生しても、そもそも健康被害など無い、その症例とは無関係だ、という反論に終始するかもしれない。過去の公害事例では、そういう例が見られます( 水俣病における清浦雷作東京工業大学教授 )。
そして、少なくとも農薬に関しては、過去の取り消し実績は寡聞にして知らず、登録の失効をもって販売が禁止されてきました。
試験成績データは、農薬登録時点での科学的知見に基づき動物実験により作成されます。当然のことですが、その後の科学的知見もありますし、また、その新規農薬を実際に人間が使用してみた結果も出てきます。
ですので、「 おそれ 」は、本来抑制的であってはいけないはずです。疑いがあるだけで、免許を停止して精査しなおすという、柔軟な運用をしてもらわなければ、「
おそれ 」では済まず、販売が継続して被害者が発生・拡大してしまいます。
抑制的に過ぎると、実際に人間に健康被害が出て、その相当因果関係を証明することで、損害賠償を求めることくらいしか、方策がなくなり、これは被害者に大変に過酷な負担を求めることになります。
この点については、農薬取締法において 2018 年に重要な改正がありました。後述します。
この様に、農薬販売許可の際に義務付けられる、新規農薬の安全性に関する試験( いわゆる科学的安全性評価 )は、新規化学物質の安全性に関する試験手順に従い、動物実験のみでおこないます。
ですので、その動物実験の具体的結果が、人間の場合の結果と同等なのか、人間への外挿妥当性が問題になります。
1.動物実験で、人間への健康被害などの影響を 100 % 確認することはできない。
2.動物実験の結果を、できる限り人間の場合の結果に近づけるように、製造メーカーが動物実験の具体的手順を考案する( 定めるのは行政 )が、結局のところ、人間の身体で試すしか、わからない。
3.その個々の動物実験手順が有効かどうかということですら、 その動物実験の手順で試験をおこない、 試験結果が設定された範囲内におさまり、新規化学物質が販売許可を受けて、
多数の人間が実際に使ってみて、健康被害が短期的にも長期的にも出ない、 ということを経るしか、わからない。
4.動物実験手順の妥当性は、多数の人間の経験により個々の、および、既存の化学物質について確認された結果であり、新規化学物質に対してもその手順が妥当なのかどうか、わからない。
上記については、世界中の「 専門家 」で反対する人は存在しないと思いますので、今後は上記を前提として、本ブログを続けます。
2018 年改正は、
大きくは、農薬の安全管理基準を世界標準に合わせるもので、
内容は、
1.科学的安全性評価試験の国際水準との整合、
2.再評価制度導入による科学的安全性評価試験の定期的実施、
です。
( 以上 3 点 引用:農水省 「 農薬取締行政の改革について 」 2017 年 7 月 13 日 )
日本を含む、東アジア・東南アジア諸国は、その高温・多湿な気候から、単位面積当たりの農薬使用量が世界的にみて比較的多い傾向があります。
日本が、農薬について世界にとっての「 炭鉱のカナリア 」にならないためにも、農薬の有効成分については、世界水準並み、あるいは、より厳しい規制が必要と思います。そういう意味で、今回の 2018 年改正は、農薬取締法規にとって、世界水準に追いつくための、とても重要な改正でした。
2018 年の改正で、試験施設(GLP )、試験方法( OECD-TG )などの世界標準に、すべて整合させることになりました。
( 以上 2 点 引用:農水省 「 農薬取締法の改正について 」 2018 年 9 月 14 日 )
2018 年改正は、
2019 年以降の新規登録農薬については、新しい知見と国際水準の試験方法を順次織り込み、科学的安全性評価試験をおこなうようになっていますが、
既に従来の評価試験をパスして、現在販売されている登録農薬は、2021 年以降順次再評価をおこなってゆく( 再評価制度 )
ことになっています。
科学的安全性評価が世界的に一定のレベルに揃えば、現在一部ネオニコチノイド系統殺虫剤において、欧州の評価と日本での評価が異なっていますが、今後は科学的安全性評価結果が収れんしてゆくでしょうし、少なくとも、現在ある評価相違の理由が、明確になってゆくと思います。
もちろん世界的なレベルの評価試験ガイダンス( OECD-TG )と言っても動物実験ですから、100 %安全というわけではないことは当然のことですが、少なくとも海外で販売に制限を受けた農薬の在庫整理先になるということは避けられます。
今回の改正は、新規農薬に関して、安全性に疑問がある評価が海外で出ていることに対応した、国内規制法制の整備ですので、今まで安全性に疑問の声を上げていた専門家・消費者などの後押しの成果と考えることもできます。
この様に、農薬の使用量が世界的にみても多い日本が、世界的な科学的安全性評価方法に合わせることで、せめて海外で使用条件に制限がついた農薬の在庫整理先にならないようにするために、農薬安全管理体制が、2018 年以降に整備されることとなり、
既に使われている農薬についても、再度 2021 年より評価をし直すこととなっていたタイミングのまさに 2020 年に、
週刊新潮に掲載された記事に対して、農薬工業会がコメントを出しています。
( 以上 2 点:週刊新潮 第2回 2020年3月26日号に関する農薬工業会見解、週刊新潮 第4回 2020年4月9日号に関する農薬工業会見解よりそれぞれ引用
)
週刊新潮の記事は、動物実験では人間に関する安全性が十分にわからず、また、現在の新規農薬は、海外での使用制限の事例もあり、人間への被害の「 おそれ 」があるものが販売されているのではないか?と問うものであったのに対して、農薬工業会は、
感受性が高い動物を用いて、小児や妊婦への影響も考慮した安全性評価が実施され安全性が確認されています、としています。
これは典型的な「 ご飯論法 」です。
健康被害が無いという意味での「 安全 」を問う記事に対して、決められた動物実験をパスしているから「 安全 」だと反論しています。「 安全 」の定義内容が変わっていて、正常な受け答えにはなっていません。
小児や妊婦への影響も考慮したというのは、おそらく小児や胎児のことだろうと思います。発達期の神経毒性に関して、DDT が血液脳関門を通過することが確認されてから、有機リン系統殺虫剤、ネオニコチノイド系統殺虫剤と科学的安全性評価試験方法についての研究が進んできました。
:ラットの成長に応じての、脳の重量増減を計る、ラットが迷路を通過するために必要な時間を計る、等です。
OECD でも議論が重ねられていて、TG-424( 1997 年 )、TG-426( 2007 年 )と試験方法が改訂されてきても、なお十分なものかどうかは議論が続いています。
結局のところ、動物は人間と同様の脳を持ちませんから、農薬メーカーの努力には敬意を表するものの、人間の脳に外挿できる、妥当な動物実験試験方法を見出すのはほとんど不可能だろうと思います。
現行の法制度の下では、農薬の販売許可が出てしまうと、
被害のおそれがあるという理由で、行政が職権で販売停止にする場合、
再評価制度に基づき試験したもののパスしなかった場合、および、
農薬メーカーが販売を自主的に継続しない( 失効 )場合
を除き、販売停止にはなりません。
そして、行政が「 おそれ 」の認定に抑圧的で、再評価制度( 2018 年改正で追加。2021 年より実施 )がなければ、農薬メーカーが自主的に販売停止する場合を除き、販売が継続してしまい、健康被害が拡大するおそれがあります。
健康被害の救済方法として残るのは、個別被害への損害賠償があるだけですが、長期低用量摂取による健康被害の発生、および、因果関係を証明することは、被害者に大変過酷な道を強いることになると思います。
農産物は、使用された農薬がわからずに摂取するのが普通です。もちろん、例えば、急性で認知障害が出るなどの場合は、何を食べたかわかるので、因果関係を紐づけしやすい。
しかし、長期低用量摂取で影響が出た場合は、わからない。仮に健康被害が出ても、最近、支援教育の生徒が増えたね、もの忘れがひどくなったね、くらいで終わってしまうかもしれません。
健康被害を認めてもらうのにも苦労がある上、因果関係など、事実上不可能です。万が一の場合、司法の救済が機能するとは、期待しづらいのです。
だから、
行政が農薬の販売許可を可能な限り制限的に与えるか、
( 万が一の場合の司法救済を過剰に期待しないで )消費者が予防的に、自主的に農薬を避けておく、
ことが現実的な対応となります。
同じく血液脳関門を通過して、脳の中へ入ってゆく物質として、ニコチン・アルコールがあります。いずれも発達期( 胎児・小児 )どころか、成人するまで禁止されています。
アルコールにしても、1 滴でダウンする人もいれば、一升瓶を抱えてまだまだ、なんていう人もいる。感受性は個人差が大きいんです。個別には、成人前でも大丈夫な子供がいるかもしれない、でも、全然受け付けない子もいるでしょう。だから、成長期の脳の安全を優先して、一律に成人まで飲酒禁止です。
どれだけの量を飲んで良いかなんて、動物実験で決定する必要などない。脳に入れるのが 0 で済むなら、0 の方が良いんです。
この事情は、農薬も同じです。これだけ知的障害・精神障害が増加している現状で、脳に直接届く神経系殺虫剤については、用心してもしすぎることはありません。
ここまで随分と長く語りましたが、私どもが経験的安全性を重視して、「 無農薬 」をお勧めする理由は、以上の通りです。
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