農家の減少・高齢化の進行が問題になって、随分と時間がたちました。しかし、米作への新規参入は少なく、現時点では、野菜作への新規参入が新規参入全体の 6 割と大きな比率を占めています。
( 引用:農水省 「 野菜をめぐる情勢 」2020 年 5 月 )
新規就農者は、統計集計上、新規自営農業就農者( いわゆる後継ぎ )、新規雇用就農者( いわゆる小作農 )、新規参入者( いわゆる独立自営業
)に分かれ、新規参入者は、2019 年では、新規就農者 55,810 人に対して、3,240 人 おおむね 6 %ほどとなっています。
新規参入者においても、露地野菜・施設野菜への就農の比率が 52.7 %と高く、新規就農者全体の傾向と同様であることがわかります。
( 上記の数字の引用:農水省 「 平成 30 年新規就農者調査 」2019 年 12 月 20 日 )
今までは、トラクター 1 台あれば、野菜農家に就農できました。野菜への就農が多いのは、この参入障壁の低さが新規参入者に受け入れられたことも理由の一つとしてあると思います。
しかし、このまま競争政策が進み、行政が促すように、野菜農家個々の規模が拡大してゆけば、他の野菜農家との競争上の必要から、新規参入者にも大きな農地と多額の専用機械購入が必要となり、米作の場合と同様に、新規参入が難しくなってゆくのではないかと心配しています。
行政による競争政策は、農家の間で勝ち負けを付け、離農による小規模農家の淘汰を促してきました。
例えば、行政の補助金は、生産規模の制限が付いていて、小規模農家を対象としない場合が多いようです。小規模農家は、ただでさえ生産コストが不利であるにもかかわらず、一定面積以上しか補助金が出ない、などとするのであれば、新規就農者数が少ないとか、離農が多いのはおかしいとか、考える方が不思議です。
農地面積の維持・保全を第一優先とするならば、小規模農家の離脱防止を中心に補助金を制度設計すべきです。競争政策など、ありえない。
輸入圧力には、補助金で対応する。その財源には、輸出売上高をもって充てるのも一考でしょう。
農地の総面積を大幅に失った挙句、この程度のコスト減では、まだまだ国際競争力がついていない、と言われても、後世畏るべし、という言葉しか思い当たりません。
国際競争力と言っても、その国の基礎的な競争条件( ファンダメンタルズ )が結果を大きく左右します。
野菜であれば、自国の市場が大きくて、労働力が極端に安くて( 都市労働者の給与水準との乖離が大きくて )、平坦な土地が広い周辺国、例えば、中国に勝てるのでしょうか?
穀物であれば、自国の市場が大きくて、農地の豊かさが何倍もあり( 肥料が不要 )、平坦な土地が無限に近く広がっている国、例えば、米国に勝てるのでしょうか?
農業の基礎的な競争条件があまりにも違いすぎるので、少々の規模拡大と機械化では、国内の小規模農家には勝てるのでしょうが、とても国際競争で勝てるとは思えません。
結局のところ、日本は、日本の栽培環境の中で努力するしかないわけで、小売価格という尺度で、1 円でも安く、は良いのですが、生産費が高いところを足切りというのは、政策として単純すぎます。
農業機械だって、中国製は安価ですよ。中国で、農業機械が一般的に使用されるようになれば、一貫の終わりです。そして、この段階では、海外と比較して中途半端な規模と高価な省力化機械に囲まれて、規模を目指した農家こそ、どうにもならないのです。
中国の低賃金労働に対抗して、少々の面積拡大をして機械化したところで、価格競争力という観点では、長期的に競争力を保ち続けることは難しいと思います。
幸いなことに、現時点では、中国野菜は農薬汚染・環境汚染の観点から、日本の消費者に受け入れられていません。国際競争力と言った場合、小売価格の比較ももちろん重要ですが、まず「 安心・安全 」という信用が必要なので、その点で差別化ができていることは、大切にすべき点だと思います。
( 上記 2 点 引用:農水省資料 )
( 注 )
農家:営耕地面積 1 反以上、あるいは、農産物販売金額が年間 15 万円以上の世帯
うち、販売農家: 営耕地面積 3 反以上、あるいは、農産物販売金額が年間 50 万円以上の農家
うち、主業農家:農業所得が 50 %以上で、1 年間に 60 日以上自営農業に従事している 65 歳未満の世帯員がいる
うち、準主業農家:農業所得が 50 %未満で、1 年間に 60 日以上自営農業に従事している 65 歳未満の世帯員がいる
うち、副業的農家: 1 年間に 60 日以上自営農業に従事している 65 歳未満の世帯員がいない
うち、自給的農家:営耕地面積が 3 反未満、かつ、農産物販売金額が年間 50 万円未満の農家
なお、農家の従事者数・平均年齢などは、基幹的農業従事者を用いている。
農業就業人口:15 歳以上の農家世帯員のうち、調査期日前 1 年間に農業のみに従事した、または、農業と兼業の 双方に従事したが、農業の従事日数の方が多い
うち、基幹的農業従事者:ふだんの主な状態が「 主に自営農業 」
「 6 次産業化」は、国内需要を満たした結果、高度成長を終えた際に、素材産業を中心に検討されていた内容です。「 川下戦略 」とも言いますね。
バリューチェーンを見れば、川上から川下へ行けば行くほど、収益が大きくなります。様々な加工がされ、また、小口になり手間がかかるので、当然のことなのですが、川上産業が川下それぞれの段階における収益を取り込もうという動きがありました。
実際は、それぞれの段階ごとに、厳しい競合があり、新規参入は容易でないです。製造業での成功事例は、ほとんどないのではないか?と思います。多くは、その後に訪れた、輸出拡販による需給問題解消と、本業回帰により、収益を回復しました。他国経済の回復に乗じて、国内景気を回復させていったのです。
本業( 農業 )の低収益に苦しむ場合、別の収入で補うのではなく、本業の収益を改善することが本質的な解決です。
ひと頃、農家レストランが良く取り上げられましたが、わざわざ都市部を離れて、地方の農村地帯へ食べに行く価値がある素材( 農産物 )を用いることでもしなければ、しばらくすると廃れていることの方が多いです。そして、その場合は、その価値ある農産物の価格を上げた方が早いです。
国内需要を満たした後、過剰になった供給力を輸出に振り向けることができれば、収益拡大を継続することができます。そうすれば、しばらくの間は、企業経営者にとって、会社経営をしているという気分に浸り続けることができたことでしょう。しかし、いずれは供給過剰が来ますし、結局は問題の先送りに過ぎません。
そして、輸出は、輸出先から輸出元への工場移転と同じことです。国内において、ある地域から、別の地域に工場が移転すれば、労働需要や、その他の購買需要も移転先に動き、移転元は製品を消費するだけになります。輸出の場合は、国境をまたぐので、生ずる問題は深刻になります。
近年、多国籍間自由貿易協定に関する考え方が、米国を中心に大きく変わってきています。多国籍間の自由貿易を否定する方向への変化であり、この方向性は、今後も変わることはないでしょう。将来的には、工業標準や安全保障に関する多国間協定、つまり、貿易収支以外は残るものの、貿易収支に関しては
2 国間貿易不均衡是正主義( 2 国間貿易均衡主義 )が基本になるでしょう。
もちろん、厳密に均衡を求めることは現実的ではありませんが、不均衡が許される幅は、これまで以上に厳しくなるものと予想するべきです。
そもそも自由貿易を是としてきた、リカードの比較生産費説は、各国が国内の効率を上げるために、得意な分野を輸出し、不得意な分野を輸入するというものでしかなく、貿易収支について自然に均衡状態に落ち着くものと考えていたようです。(
当然のことながら、均衡しなければ、借金となります。)
問題は、シニョリッジと信用貨幣制度とにより、貿易不均衡の大幅な拡大が米国だけには許容されてしまっていたことで、結果米国の国内製造業空洞化などを招き、経済的にダメージが大きくなってしまっています。こうなると、米国国内効率化もへったくれもありません。大量の失業者とあふれる安い輸入品と言うアンバランスな米国の現状に対して、自由貿易というイデオロギーだけでは、米国内の国民的合意は得づらいと思います。
野放図な自由貿易主義を廃し、各国との貿易は収支均衡を原則とする、のは、自然な流れと思います。そういう文脈で、規模拡大によりコスト低減・収益拡大を求める、単純な経営戦略は、今後の輸出削減が求められる局面において、逆により大きな負担を強いられることになるでしょう。企業整理、統廃合ぐらいしか、方策はないものと思います。満れば、欠くるです。
早晩、米国へ輸出超過することを前提にした経済政策は見直しを余儀なくされるものと考えます。しかし、米国以外の国へ輸出超過を振り代えることは、先方の外貨不足と同義なので、不可能です。
そういう意味で、対米輸出の代替先を見出すことは、容易ではなく、今までの日米経済摩擦では、特に農業分野の関税低減による農産物輸入額増加により、小手先で何とかやり過ごし、収支均衡による解決を先送りすることができてきましたが、米国経済の現状を見ると今後は相当厳しい交渉になるものと考えます。
私は、種子法廃止などにより進められている、年間 200 - 250 億円規模の米種子市場民営化も、農産物輸入拡大路線に沿った政策であるものと考えています。つまり、米国からの米種子輸入拡大は、行政の思惑通りであるものと見ています。( 民間米種子の価格は、現在の公共種子の
8 倍くらいなので、2,000 億円前後になることを期待しているのでしょうが、それにしても大きくはない。)
しかし、新技術( ゲノム技術 )は安全面を含めて、疑問が多すぎるので、わずかな金額の米種子民営化をやるくらいなら、むしろ対米輸出自粛を検討すべきものと考えます。
はっきり言えば、対米自動車輸出を継続するために払う代償が、大きくなり過ぎていて話にならない。対米自動車輸出を削減すべきです。
生産規模を拡大すれば、コストが下がり収益が良くなるが、市場が飽和すればどうしようもなくなるというのは、製造業だけではなく、農業も同じです。需要拡大時は良いが、縮小時は大変です。規模の拡大は薄利多売と裏腹だからです。
何を強みにして、農産物輸出をおこなうのかわかりませんが、規模を拡大してコストを下げるにしても、我が国の環境では限界があるでしょう?独特の味わいで勝負するにしても、そうなれば、栽培技術よりも種子開発が効いてくるのですが、輸出を望む農家が自分で種子開発をしているのでしょうか?種子メーカーから買ってくるだけでしょう。
6 次産業化にしても、輸出拡販にしても、本業の収益が低下し、じり貧になってきた際に、検討されることが多いようですが、多くの場合、本業の価格を上げてゆくことでしか、収益を改善することはできないようです。
価格を上げてゆく方策の一つとしての、有機栽培について、別稿にしたいと思います。
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