ここのところグリホサート除草剤の安全プロパガンダが良く見られます。
今後、さらに規模拡大を促進してゆくには、適用雑草が広い( 植物すべて )、非選択性除草剤の導入による除草作業の大幅省力化がテーマになります。
非選択性除草剤は、全ての植物が備えているアミノ酸合成システムの一部につき、その働きを阻害するというメカニズムで、全ての植物を枯らします。そういう状況でも、遺伝子組換え技術を用いて、その阻害される機能を補うように設計してある植物は、問題なく生き残れます。
こうして、圃場全体に撒くだけで除草が終了しますので、非選択性除草剤を用いない場合に比べると、大幅に労働時間を省略できます。遺伝子組換え種子+非選択性除草剤の組み合わせ は、コスト低減効果が大きいですので、規模拡大=コスト低減路線に乗っている農家は、一部が採用した場合、全部が追随してゆかざるを得なくなるだろうと思います。
非選択性除草剤は、グリホサート( ラウンドアップ( バイエル ))、グリホシネート( バスタ( BASF )、ザクサ( 明治製菓ファルマ ))があります。
人間にはない、植物が持つ固有の機能を攻撃することから、人体には無害とする向きもありましたが、所詮は、新規化学物質は人体にとって全てが異物であり、どういうメカニズムで健康被害が発生するかわかりません。2017 年、フランスの食品安全規制当局は、生殖毒性を理由に、グリホシネートの農薬としての販売を禁止しました。( 日本・米国などでは、グリホシネートの販売が継続しています。)
問題は、人体の中にある別の生物です。腸内に共存する大量の細菌で、乳酸菌、ビフィズス菌、大腸菌などが良く知られていますが、1,000種類、1,000兆個に及ぶとされ、個々人に固有の、腸内細菌叢形成パターンがあることが知られています。そして、腸内細菌叢は、食物消化などの際に重要な役割を果たしています。
グリホサートは、妊婦への健康影響として、生まれてくる子供に自閉症をもたらす可能性がある( 2020 年 )という指摘がされています。( 余談ですが、この論文の意味、否、論文というものの読み方がわからずに、あるいは、論文を読みもせずに、動物実験だから人間の場合は自閉症が出るかどうか分からない、などという、迷批判?
をするナス農家が居ますね。落ちこぼれという自覚があるのであれば、もう少し謙虚に意見表明したら?と思います。少なくとも、Fact check に登場するべきでは無いよね。このサイト自体が?ですが。)
当然のことながら、個々の腸内細菌と人間の身体とは、異物への反応が異なります。動物実験では、動物と人間とでは腸内細菌叢が当然のことですが異なりますので、人間の腸内細菌叢への健康影響は予想できません。つまり、人間の体内の腸内細菌叢への影響は、現在の安全性評価試験方法では、動物実験ゆえの限界があり、何もわからないのです。
だから、現在、輸入小麦のほとんどで、グリホサートが検出されていますが、グリホサートの ADI に比べて、残留農薬量が多い少ないと言ったところで、ADI
は動物実験に基づく不充分な数字であり、比べる意味がありません。既に、食べている人に神経毒性が出ているかもしれません。
もっとも動物実験に限界があるのは、現行評価方法の延長線上であるからであり、Michael Antoniou, Robin Mesnage 2021 によれば、規制当局は時代遅れの方法に依存するのではなく、ゲノム技術における研究成果を織り込んだ新しい方法を採用すべきだ、となります。アントニオ教授とメスナージ教授による、ゲノム技術を取り入れた新しい方法によれば、グリホサートは腸内細菌叢に影響を与えるとともに、発がん性も認められることになります。
アントニオ教授らの新しい方法への判断・評価は控えますが、現在の科学的安全性評価方法( OECD ガイドライン )では、動物実験の結果を人間の場合に置き換えることが難しい部分があると言う指摘が、多くからなされるようになってきています。
OECD ガイドラインを、例えば、発達神経毒性について見てみましょう。
TG - 424 ;1997 年に制定。発達期( 胎児から若齢期まで。体内器官の形成期。≒ 小児科 )毒性に関するガイド ライン。子ラット 20
匹/群 の体重・行動・神経病理解剖を比較観察する。
体重比較や外形比較だけで、この農薬は妊婦( 胎児 )にも安全です、とするのもどうかと言うことなのでしょう。ラットの頭脳をつかった行動に変化が出ないことを、比較するように改善するべく、
TG - 426 ;2007 年に制定。親ラットの妊娠から管理する。子ラット 40 匹/群の、脳重量比較、また、迷路通過時間 ・明暗に対する反応時間など学習・記憶機能試験などを追加し、離乳前・成長期・若齢成熟期に検査する。
これでも、IQ 190 の創造力ある人間への健康影響・被害はわからないかもしれないけれど、確かに、ラットの頭脳を少し使った動物実験であり、できるだけ人間の高次脳機能に対する影響に近づけて評価しようとした試みではあるとは評価できます。しかしながら、今度は、なかなかデータが安定せず、試験数が増え、ラット数も増やさざるを得ず、コストが大幅に上がってしまうことも理由にあるのでしょう。TG - 426 は実際の農薬科学的安全性評価試験での採用には至っていません。( 現状用いられているのは、TG -
424 体重・行動・神経病理解剖での評価試験のみ )
例えば、ネオニコチノイド系統殺虫剤 クロチアニジンは、蜂群崩壊を受けて、ヨーロッパでは 2013 年より一時的に使用禁止、2018 年より恒久的に屋外使用禁止となりました。農薬メーカーである、住友化学はその後ヨーロッパでの販売を見送りましたが( ヨーロッパでの販売許可を更新せず
)、日本国内では、依然としてクロチアニジンの販売を継続しています。
これに対して、2014 年に内閣府食品安全委員会は、古い TG - 424( 1997 年 )に基づく科学的安全性評価試験結果を受け入れ、ADI などを設定しました。人間での結果を予想するのには、依然不充分なものであるという嫌いはありますが、少しでも妥当な TG - 426( 2007 年 )に基づく科学的安全性評価試験に早く切り替えさせるべきであると思います。この状況を放置するようであれば、内閣府食品安全委員会への国民の信頼が、地に落ちるだけではないですか。
もっとも、農薬メーカーにとっては、因果関係を証明できない、不充分な科学的安全性評価試験であれば、不充分であるほど、商売には都合が良いですね。因果関係を証明できない = 因果関係が無い というデマに持ってゆき易い、とは思います。
いずれにせよ、現行の科学的安全性評価試験方法では、人の生き死にくらいは、それなりの結論を出せても、人間と動物の違いがある器官に関する科学的安全性評価は、何もできません。だから、現行方法を完全な安全性評価ができる方法であると考えることはできません。
現在の科学的安全性評価は、新規化学物質を、いきなり人間に試すわけにゆきませんから、動物で実験しているだけです。もちろん、動物実験の結果が人間の場合と完全に同様になることはありませんが、予想外の健康被害をできる限り回避するために、今できるだけの努力はしていますが、現行の科学的安全性評価試験を充分なものと考えている、まともな毒性学者は世界中に存在しません。
この動物実験の限界が国民の間で共有されない原因は、農薬メーカーの、安全性評価担当技術者の責任が大きいです。新規農薬開発担当技術者の中には、いわゆるマッドサイエンティスト傾向の人もいて、科学技術の進歩に犠牲はつきものだ、などと考えているかもしれませんが、安全性評価担当技術者は、新規農薬開発担当技術者と本質的に対立する立場であり、安全性の面からきちんと牽制すべきなのです。
グリホサートの科学的安全性を語るうえで、グリホサートの発がん性を世界で初めて指摘したセラリーニ論文( 2012 年 )は画期的なものでした。Cean
大学分子生物学教授セラリーニ博士による、この論文は、しかしながら、その試験設計や計測データからの演繹的推論について非妥当性の指摘を受けています。
いわく、
・グリホサートが含まれていない餌を与えた群でも発がんが多くあり、発がんし易いラットであり、発がん性を検証するのに適切でない、
・実験に用いたラットの数が少なく、有意あるデータとは言えない、、、
・従って、これらのデータから導き出される評価は、採用できない、
と EFSA( 欧州食品安全機関 )は結論付けました。EFSA の評価・判断の是非については、ここで触れません。
この EFSA の主張から理解できるのは、この論文のデータによりグリホサートの発がん性を結論付けることは妥当でない、と評価しただけであり、発がん性が無いことを証明したわけではありません。
また、ある農学部名誉教授は、この論文を発表したのは、論文と同時期に作った映画「 世界が食べられなくなる日 」の宣伝のため、つまりは、金儲けのために論文で映画を宣伝した、と批判するのですが、これはいわゆる下種の勘繰りでしょう。根拠も何もない。
逆に、ブーメランではありませんか?あなたは、農薬メーカーからの講演料、原稿料、会食費、、、を受け取ったことが無いのですか?
学者が、論文の科学的判断の範囲にとどまらずに、人格攻撃をするのはいかがですかね?農学部名誉教授をプロフィールにするのも良いですが、こんなのと同類にされるのは恥ずかしいと他学部の卒業生に迷惑がられているかもしれません。
人格攻撃の思い込みを滔々と披露するのは、いやしくも学者を名乗っていて、恥ずかしくありませんか?
これでは、業界紙の駄文と変わらないでは無いですか。農薬業界以外の業界では、ここまで世論誘導をやりません。農薬業界は、食の安全を語るべきでない、外れ者なんですよ。
いずれにせよ、この元農学部教授は、人格攻撃をするとは、誠に卑劣でみっともない。恥を知れ!と言うところです。
わが国では、少なくとも需給が安定して供給過多になった( 米不足がなくなった )、1970 年代以降は、増産策を取る必要がありませんでした。それにもかかわらず、それからはや半世紀にもなろうとする 2020 年代 現在においても、営農規模拡大策を含めて、依然として増産策が農業政策として取られ続けています。
新田開発 → 営農規模拡大 → 増産 と言う、増産の典型的な進め方なら農業政策の是非がわかり易かったのですが、米需要の漸減に伴う過剰供給傾向の下、多くの離農により空いた水田を吸収する形で営農規模が拡大するという進め方は、行政の本当の狙いをわかりにくくしています。
米の総需要が漸減している状況であるにもかかわらず、
・農薬・肥料・大型農機を用いる、( 単位面積当たり )増産策を取る
→ 本気で増産など期待していない、増産の必要が無いから、
実際に供給量は減少し、食糧( 穀物 )自給率は半減した、
・国際競争と称して、とても実現しそうにない生産者価格目標を設定する
→ 農薬・肥料・農機が高止まりしていて、国際価格から遥かに高価な水準のままである、
他にも固定資産税・電灯電気代などを含めて、国際価格から乖離している農業資材は多いけれども、それら全てを最終製品( 米生産者価格 )だけにしわ寄せするのは間違っていないだろうか?
国際価格目標までは及ばないが、米の消費者価格が下がったことを、都市労働者は好意的に受け止めているが、むしろ懐柔されているだけなのではないのだろうか? 米の小売価格が安くてうれしい、と単純に喜んで良い場面ではない、のではないか?
ここで、離農により空いた農地を追加して、規模を拡大してきた農家が、経営力があると自負して野郎自大になっているのが、不思議です。行政から国際競争力強化を目標設定されて、輸出用サイロの夢を抱くのは良いのですが、輸出って、、、、、、
こういう海外の大規模農家と競争してゆくことですよね。経営力云々で何とかなるレベルではないでしょう? サイロ男は、勝てるつもりでいるのか? 日本国内で太刀打ちできるのは、北海道の一部地域くらいでしょう。それ以外は全滅で良いのか?
自給率が落ちるだけだろ。そもそも栽培環境から経営環境まで全く異なる海外大規模農家と、日本の農家とが国際競争しなくてはならないのは何故なのか?
むしろ、今までの農政の目標は、小規模農を淘汰し集約化、農業をピラミッド構造にすることだった、と考えた方がわかり易いです。つまり、政策目標実現のために、小規模・零細農が淘汰されたのは仕方が無いということではなく、むしろ小規模・零細農の淘汰それ自体が政策目標だったと考えるしかないのです。
いやはや、行政は邪悪な政策目標を設定したものです。こんなこと、税金を使ってやるんじゃないよ!
そして、都市住民は、米の小売価格が下がったことを喜び、行政に懐柔されてきています。米が安くなったら、目先はうれしいのですが、さすがに水田面積が半分になったら、何かおかしいと気づかなければいけないでしょう。都市住民にとって米作は、米小売価格しか関心が無く、農家の生活を他人事で考えているのでは?
安いから良い、という小売価格だけを指標にする購買行動は、価格が安い理由を知ろうとしなければ、効率化( 近代化と言っても同じ )という方便に歯止めが効かないんです。
例えば、私は牛乳を飲みません。チーズやアイスクリームなど乳酸品もほとんど食べません。
人工授精により出産を継続する乳牛、牛舎で鎖につながれ運動もほとんどできず、度重なる出産により寿命が短い。出産した仔牛がメスなら乳牛に育てますが、仔牛がオスなら肉牛には不向きな種なので、直ぐに屠殺されます。メスは飼料により乳牛に育てられますが、飼育段階で牛乳が与えられることはありません。
これ、人間だとしたら、精神的に耐えられる女性は居ますか? 肉牛や養豚などとは異なる種類の、過酷な一生がここにはあります。
熾烈な価格競争により、農家が好むと好まざるにかかわらず、多くの酪農はこういった形に収れんしています。
こういった牛乳しか入手し難いので、きれいごとを言うつもりはありませんが、私は牛乳を飲む気になれないんです。効率化が一線を越えていて、「 食料生産の妥当性 」という歯止めが効いていない。販売価格が安ければ、効率化されている( 近代化と言っても同じ )、と正当化するのは、結局のところお金が大事ということの裏返しでしかありません。生産者が拝金主義を信奉するのは個人の自由なのですが、消費者の選択基準は、お金が大切とは別にあっても良いと思います。
少なくとも私には、近代酪農が性分に合わないようです。
では、米の生産コストが下がったのは何故か?今まで米の生産コストを押し上げて来たものは、何か?
結論的には、離農者( 失業者 )の収入減が、さまざまな形で配分されました。代替需要である小麦の購入費、農薬・肥料や大型農業機械の販売額を差し引いた後に、残った収入減少が、米の消費者価格低下につながります。売上高を大きな容器に入れて考えれば、全体の動きは以上の様に理解できます。
単純に、小麦に振り替わった分、米作総収入が減っただけではないんです。さらに過剰な競争を強いたために、離農者が続出し、彼らの収入が減少しました。
大きいことは良いことだ、という農業政策に従い、営農規模が 50 ha を越え 100 ha くらいまでになると、農奴契約もどきに絡めとられることになります。否、そうでなく、経営の独立を貫くと言うのであれば、いつまでも増産投資を続けローンの重圧に苦しめられるか、投資資金切れでコスト競争力を失うか、経営環境悪化により大きな影響を受け淘汰されるか、、、この路線を途中で降りることは、難しいんです。
問題は、降りられなくなった農家です。サイロを持ちたいと思うのは構わないのですが、営農規模が 50 ha を越えた農家は、もはや有機農業( 無農薬栽培 )に戻ることはできないでしょう。だからと言って、他の農家を巻き添えにしようとするのは止めて欲しいものです。
大規模化による一番の障害は、需給状況の変化に耐えられないことです。需要/供給が例えば 10 %落ちるのは全体的には比率で効いてきますが、個々の農家には金額で効いてくる。規模が大きいと、少しの比率の変化でも農家個人には耐えきれないほどの金額変化になります。こういう場合に備えた補助金などが、現在のところ、大規模農家の方が優遇されて配分されているんです。小規模・零細農家にはほとんどない。
こういう事実を踏まえると大規模農家の方が補助金などへの依存度が大きいと言うことができます。もちろん、大規模化農政が、今後も引き続き採用されると言うことならば、問題は表面化しないのかもしれない。しかし、水田面積の半減と言う結果が出ていますから、農政見直しの機運も今後高まるでしょう。大規模化政策が見直された際に、需給変動に実力で耐えられる大規模農家がどれだけあるか? ほとんど存続できないのではないか? 小規模・零細農を趣味的農家とか、自給的農家とか見下してマウントを取るのは、自分がハンデを貰っているという自覚ゆえの劣等感から来ているのかもしれません。
この様に、現在比較優位にあると自画自賛している、中・大規模農家も現在の大規模化農政が継続することを望んでいるという現実があります。農薬・肥料メーカー、大型農機具メーカーだけが望んでいるわけではないんです。
中・大規模化している農家は、こういったハンデもあり、また、現在までのところ規模拡大に応じて収益拡大が続いているために、全体を俯瞰できる農家以外は、概して規模拡大路線の先行きを楽観的に捉える傾向があります。
ここには、慣行農法を支える農薬安全論があるけれども、これは農薬メーカーの過剰な農薬安全プロパガンダに基づくもので、現在の動物実験に基づく、科学的安全性評価では、充分に安全を保証できないこと( これは、スモンやサリドマイド薬害事件で明らかです。これは、整腸薬により様々な神経障害などの健康被害が発生した。健康被害が出始めてから、15
年以上が経過し、疫学的証明により、原因が突き止められた。など )を今まで述べてきました。元農学部教授も、毒性学者たる矜持があるのであれば、セラリーニ論文のあら捜しをするよりも、健康被害の可能性がありとして、農薬メーカーに対して農薬販売中止を意見するべきです。
では、大規模化農政の不思議に思われる点は、
総需要が頭打ち、あるいは、漸減している米作について、単位面積当たり収穫量増加策である慣行農法( 農薬栽培 )をおこなっていることだけでしょうか?
国際競争力強化をうたいながら、実際には弱体化している点はいかがでしょうか?
これには、上述した補助金などが規模に応じて優遇されている点があるのですが、それに加えて、米の流通形態が大きくかかわっています。別稿に改めます。
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